
2026.7.30
FROM NURSERY TO COLLECTION
子供部屋から、大人のコレクションへ。
棚に並んだ木製の生きものたち。うさぎ、鳥、馬、そして衛兵の人形。ひとつひとつ表情の違う木の生きものが、まるで小さな美術館の一角のように並んでいます。
今日お話ししたいのは、もともと子供のために作られたはずの木のおもちゃが、時を経てもなお道具としての役割を持ち続けながら、大人たちのコレクションという形にもその魅力を広げていった経緯について。
20世紀のデンマークで育まれた木工玩具の文化や、その時代背景を辿りながら綴ってみようと思います。

A SILVERSMITH'S DETOUR INTO WOOD 銀細工師が、木に手を伸ばした理由
そうした木のおもちゃの中でも、代表格として欠かせないのがKay Bojesen(カイ・ボイスン)という人物です。1886年生まれ。もともとはGeorg Jensenのもとで学んだ銀細工師で、1913年には自身の工房を構えています。
1938年に発表したカトラリー「Grand Prix」は、1951年のミラノ・トリエンナーレで受賞したことから、後にその名を得たシリーズ。今もデンマークの定番カトラリーとして愛され続けています。
そんな彼が最初の木のおもちゃを手がけたのは1920年代のこと。
「デザインの線は、微笑んでいなければならない」
これはBojesen自身が語ったとされる言葉です。機械仕掛けの精巧さよりも、無垢材の手触りや、握って、動かして、確かめられる可動部。子供の小さな手のために、あえて装飾を削ぎ落とすというBojesenの姿勢は、当時のデンマークで花開いていたモダニズムの空気とも重なっていたように思います。
まるで生きているよう、可動する喜び
写真のうさぎとダックスフンドも、各所が稼働するようになっています。特にウサギは関節がひとつひとつ独立して動く作り。
丸みを帯びた輪郭は、角を落として磨き上げられ、どこを触っても手に優しい。実際に遊ぶ道具として、ここまで丁寧に作り込まれていたことに、あらためて驚かされます。

WOODEN TOYS OF A WARTIME DENMARK 資材の乏しい時代が、木を後押しした
第二次世界大戦下のデンマークでは、玩具に金属やゴムを使うことが禁じられていた時期がありました。
それまで玩具の多くを輸入に頼っていたところへ、海外からの流通も滞ったことで、国内の木工職人たちが力を発揮する余地が生まれ、デンマークの木製玩具づくりを大きく後押ししたと言われています。
Bojesenの代表作である木製の「サル」が生まれたのは1951年のこと。もともとは子供部屋向けの家具展示会のために依頼された、コート掛けのフックがきっかけだったそうです。
長い腕でフックの位置を子供の目線まで下げ、短い脚の間には帽子やマフラーを置けるスペースを作る。実用的な依頼から生まれたはずが、いつしかBojesenを象徴する存在になっていきました。
そして写真の衛兵人形も、彼の工房を代表する作品のひとつです。デンマーク王室の近衛兵をモチーフに、赤と紺の制服、旗や太鼓までを木と塗装で再現したこの人形は、遊び道具でありながら、デンマークという国そのものを小さく凝縮したような存在でもあります。
ひとつひとつが組み合わさり、行進するように並べられる。子供が手で動かして遊ぶことを前提にしながらも、置物としての佇まいの美しさまで計算されているところに、Bojesenという作り手の几帳面さがにじんでいます。

A ROLE THAT ENDURES 遊び道具は、いまも佇まいの道具でもある
1958年にBojesenが世を去った後も、彼の木製玩具はデンマークを代表するデザインとして生き続けます。
1990年代に入り、ブランドの商業権を引き継いだRosendahl Design Groupのもとで復刻生産が始まり、2010年には「Kay Bojesen Denmark」というブランド名に統一されました。
今もこのブランドのもとで、Bojesenの木のいきもの達は、玩具店だけでなく、デザインミュージアムのショップやインテリアショップにも並ぶようになりました。
いつしか大人のコレクションにもなったKay Bojesenの木製玩具。私もその大人の一人です。現行品、ヴィンテージ問わず、デンマークの素晴らしいデザインのアイテムはつい手にしてしまいます。
どう並べるか、どこに置くか。大人の僕たちにインテリアの楽しさを教えてくれます。その姿は愛おしく、自然素材のあたたかみを感じる木のぬくもり、手に馴染む柔らかいフォルムはずっと触れていたくなるほどです。
優れたデザインは時を超え、長らく愛されると改めて感じます。
今でもこどもたちに愛され続けている一方で、ゲームなどの玩具の普及により、木のいきもの達の用途は昔と比べて変化があるのかもしれませんね。
それでも手に取ったときのあたたかさだけは、当時から少しも変わっていないように感じます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
