

2026.7.14
PORTRAITS IN MOLTEN GLASS
ガラスに顔を宿す、Erik Höglundの遊び心
テーブルの上にずらりと並べてみると、まるで家族の記念撮影のようです。丸い頭に素朴な表情の女性、四角い顔でめかし込んだ男性、小さく可愛らしい子どものサイズ。カラーバリエーションも豊かで、青、紫、緑、琥珀色。どれも同じ「顔」というモチーフを持ちながら、一体として同じ表情がありません。
今日ご紹介したいのは、スウェーデンの伝説的なガラス作家エリック・ホグラン(Erik Höglund)が手がけた「People(ピープル)」シリーズ。買い付けを重ねるうちに、気づけば手元にはさまざまな色・大きさの個体が集まっていました。今回は、この愛嬌のあるボトル/デキャンターたちを軸に、ホグランという作家のガラスへの向き合い方について、少しお話ししようと思います。

A SCULPTOR WHO CHOSE GLASS 彫刻家が、ガラスを選んだ理由
エリック・ホグランは1932年生まれ。1953年にスウェーデン・スモーランド地方のガラス工房「Boda Glasbruk(ボダ・グラスブルック)」に加わったことで知られています。
当時のスウェーデン製ガラスといえば、澄んだ透明感と滑らかな曲線を追求するのが主流でした。そこへホグランが持ち込んだのは、まったく逆の感覚。彫刻を学んだ経験を活かし、あえて表面の気泡や歪みを消さず、鋳型からそのまま立ち上がってきたような、荒々しく人間味のある質感をガラスに与えたのです。
縁も皺も、隠さない
Peopleシリーズの顔も、まさにこの感覚の延長線上にあります。眉、目、鼻筋、口元。どれも彫刻刀でひと息に彫ったような、素朴で力強い線で構成されています。
滑らかに磨き上げるのではなく、型から生まれた気泡や厚みのムラをそのまま残す。完璧さよりも、手が生んだ「表情」を優先する。それが、ホグランがガラスという素材に対して貫いた姿勢だったのだと思います。

A DRESSED-UP COUPLE 礼装をまとった、特別な二人
手元にあるPeopleシリーズの多くは、丸い頭に前髪と目鼻を刻み、裾広がりのスカートフォルムの可愛らしい女性をモチーフにしたものです。多くの個体が、色こそ違えどこのシンプルな顔立ちを共有しています。
そんな中で異彩を放つのが、深いコバルトブルーで作られた紳士と淑女のペア。四角い輪郭に口髭と蝶ネクタイを蓄えた紳士と、丸い頭にネックレスのような線をまとった淑女。裾の広がったドレスや、釦を思わせる胸元の意匠まで作り込まれていて、他の個体たちとは明らかに趣が異なります。
型は同じでも、装いは自由に
面白いのは、普段は素朴でシンプル、優しい表情をしたこのシリーズの中で、あえてこれほど装飾的な一組を作ってしまうところ。決まった形に縛られず、思いついた表情をそのまま形にしてしまう、ホグランらしい遊び心がここにも表れているように感じます。
口髭の生え方や蝶ネクタイの結び目ひとつにも丁寧な作り込みが見て取れて、シリーズ全体の骨格はそのままに、細部の表現だけをがらりと変えてしまう自由さに、あらためて驚かされます。

A CHORUS OF COLOR 色が変われば、表情も変わる
Peopleシリーズのもうひとつの魅力は、色の振れ幅の大きさです。深く沈むコバルトブルー、定番のクリア、透き通るグリーン、そして温かみのある琥珀色。同じ顔立ちでも、まとう色によって放つ空気がまるで違って見えます。
青や紫の個体はどこか凛とした佇まいを、緑や琥珀の個体はやわらかく親しみやすい表情を見せてくれる。ガラス工房ならではの色の実験精神が、このシリーズにも存分に生かされているのだと思います。
形はひとつの「ヒト」というモチーフに絞りながら、色や大きさによって無数のバリエーションを生み出す。量産品には感じられない遊び心があり、当時の工房の息づかいを感じます。
色も大きさも違う個体を何体か並べてみると、まるで小さな一族が集まっているような景色になります。実用品としてではなく、テーブルの上でただ佇んでいるだけでも、十分に絵になる存在感を持っていると思います。
一つとして同じ個体がないので、コレクションしていてとても興味深く、つい夢中になってしまうシリーズでもあります。まんまと彼の遊び心に魅力されていますね。
ヒトも顔や性格が一人一人違うように、ひとつひとつ個体の違いを楽しんでいきたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
